本ガイドでは、バックグラウンドで実行するジョブの作成、キュー登録 (エンキュー: enqueue)、実行方法について解説します。
このガイドの内容:
Active Jobは、ジョブを宣言し、それによってバックエンドでさまざまな方法によるキュー操作を実行するためのフレームワークです。ジョブには、定期的なクリーンアップを始めとして、請求書発行やメール配信など、あらゆる処理がジョブになります。これらのジョブをより細かな作業単位に分割して並列実行することもできます。
Active Jobの主要な目的は、あらゆるRailsアプリケーションにジョブ管理インフラを配置することです。これにより、Delayed JobとResqueなどのように、さまざまなジョブ実行機能のAPIの違いを気にせずにジョブフレームワーク機能やその他のgemを搭載することができるようになります。バックエンドでのキューイング作業では、操作方法以外のことを気にせずに済みます。さらに、ジョブ管理フレームワークを切り替える際にジョブを書き直さずに済みます。
デフォルトのRailsは非同期キューを実装します。これは、インプロセスのスレッドプールでジョブを実行します。ジョブは非同期に実行されますが、再起動するとすべてのジョブは失われます。
このセクションでは、ジョブの作成方法とジョブの登録 (enqueue: エンキュー) 方法を手順を追って説明します。
Active Jobは、ジョブ作成用のRailsジェネレータを提供しています。以下を実行すると、app/jobs
にジョブが1つ作成されます。
$ bin/rails generate job guests_cleanup invoke test_unit create test/jobs/guests_cleanup_job_test.rb create app/jobs/guests_cleanup_job.rb
以下のようにすると、特定のキューに対してジョブを1件作成できます。
$ bin/rails generate job guests_cleanup --queue urgent
ジェネレータを使いたくない場合は、app/jobs
の下に自分でジョブファイルを作成することもできます。ジョブファイルでは必ずApplicationJob
を継承してください。
作成されたジョブは以下のようになります。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :default def perform(*guests) # 後で実行するタスクをここに置く end end
なお、perform
の定義にはいくつでも引数を渡せます。
ApplicationJob
と異なる名前の抽象クラスが既に存在する場合、以下のように--parent
オプションを渡すことで、別の抽象クラスが必要であることを示せます。
$ bin/rails generate job process_payment --parent=payment_job
class ProcessPaymentJob < PaymentJob queue_as :default def perform(*args) # 後で実行するタスクをここに置く end end
キューへのジョブ登録はperform_later
で以下のように行います。オプションでset
も指定できます。
# 「キューイングシステムが空いたらジョブを実行する」とキューに登録する GuestsCleanupJob.perform_later guest
# 明日正午に実行したいジョブをキューに登録する GuestsCleanupJob.set(wait_until: Date.tomorrow.noon).perform_later(guest)
# 一週間後に実行したいジョブをキューに登録する GuestsCleanupJob.set(wait: 1.week).perform_later(guest)
# `perform_now`と`perform_later`は`perform`を呼び出すので、 # 定義した引数を渡すことができる GuestsCleanupJob.perform_later(guest1, guest2, filter: "some_filter")
以上でジョブ登録は完了です。
perform_all_later
を使うと、複数のジョブを一括登録できます。詳しくは一括登録を参照してください。
production環境でのジョブのキュー登録と実行では、キューイングのバックエンドを用意しておく必要があります。具体的には、Railsで使うべきサードパーティのキューイングライブラリを決める必要があります。 Rails自身が提供するのは、ジョブをメモリに保持するインプロセスのキューイングシステムだけです。 プロセスがクラッシュしたりコンピュータをリセットしたりすると、デフォルトの非同期バックエンドの振る舞いによって主要なジョブが失われてしまいます。アプリケーションが小規模な場合やミッションクリティカルでないジョブであればこれでも構いませんが、多くのproductionでは永続的なバックエンドを選ぶ必要があります。
Active Jobには、Sidekiq、Resque、Delayed Jobなどさまざまなキューイングバックエンドに接続できるアダプタがビルトインで用意されています。利用可能な最新のアダプタのリストについては、APIドキュメントのActiveJob::QueueAdapters
を参照してください。
キューイングバックエンドは、[config.active_job.queue_adapter
]で手軽に設定できます。
# config/application.rb module YourApp class Application < Rails::Application # 必ずGemfileにアダプタのgemを追加し、 # アダプタ固有のインストール方法や # デプロイ方法に従うこと。 config.active_job.queue_adapter = :sidekiq end end
次のように、ジョブごとにバックエンドを設定することもできます。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob self.queue_adapter = :resque # ... end # これでジョブが`resque`を使うようになります # `config.active_job.queue_adapter`で設定された内容が # バックエンドキューアダプタでオーバーライドされるためです
ジョブはRailsアプリケーションに対して並列で実行されるので、多くのキューイングライブラリでは、ジョブを処理するためにライブラリ固有のキューイングサービスを (Railsアプリケーションの起動とは別に) 起動しておくことが求められます。キューのバックエンドの起動方法については、ライブラリのドキュメントを参照してください。
以下はドキュメントのリストの一部です(すべてを網羅しているわけではありません)。
多くのアダプタでは複数のキューを扱えます。Active Jobのqueue_as
を使って、特定のキューに入っているジョブをスケジューリングできます。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :low_priority # ... end
application.rb
で以下のようにconfig.active_job.queue_name_prefix
を使うことで、すべてのジョブでキュー名の前に特定の文字列を追加できます。
# config/application.rb module YourApp class Application < Rails::Application config.active_job.queue_name_prefix = Rails.env end end
# app/jobs/guests_cleanup_job.rb class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :low_priority # ... end # 以上で、production環境ではproduction_low_priorityというキューでジョブが # 実行されるようになり、staging環境ではstaging_low_priorityというキューで # ジョブが実行されるようになります
以下のようにジョブごとにプレフィックスを設定することもできます。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :low_priority self.queue_name_prefix = nil # ... end # これで自分のジョブキューにプレフィックスが設定されなくなり # `config.active_job.queue_name_prefix`の設定が上書きされます
キュー名のプレフィックスのデフォルト区切り文字は'_'です。config.active_job.queue_name_delimiter
を設定することでこの区切り文字を変更できます。
# config/application.rb module YourApp class Application < Rails::Application config.active_job.queue_name_prefix = Rails.env config.active_job.queue_name_delimiter = "." end end
# app/jobs/guests_cleanup_job.rb class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :low_priority # ... end # 以上で、production環境ではproduction.low_priorityというキューでジョブが # 実行されるようになり、staging環境ではstaging.low_priorityというキューでジョブが実行されるようになります
#queue_as
にブロックを渡すと、キューをそのジョブレベルで制御できます。与えられたブロックは、そのジョブのコンテキストで実行されます (これによりself.arguments
にアクセスできるようになります)。そしてキュー名を返さなくてはなりません。
class ProcessVideoJob < ApplicationJob queue_as do video = self.arguments.first if video.owner.premium? :premium_videojobs else :videojobs end end def perform(video) # 動画を処理する end end
ProcessVideoJob.perform_later(Video.last)
ジョブを実行するキューをさらに細かく制御したい場合は、#set
に:queue
オプションを渡せます。
MyJob.set(queue: :another_queue).perform_later(record)
設定したキュー名をキューイングバックエンドが「リッスンする」ようにしてください。一部のバックエンドでは、リッスンするキューを指定する必要が生じることもあります。
アダプタによってはジョブレベルでの優先順位付けをサポートしており、キュー内の別のジョブや、すべてのキュー内にある他のジョブに対してジョブを優先できます。
優先順位を指定してジョブをスケジューリングするには、queue_with_priority
メソッドを使います。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_with_priority 10 # ... end
このメソッドは、優先順位付けをサポートしていないアダプタでは無効です。
queue_as
の場合と同様に、queue_with_priority
にブロックを渡してジョブのコンテキストで評価することも可能です。
class ProcessVideoJob < ApplicationJob queue_with_priority do video = self.arguments.first if video.owner.premium? 0 else 10 end end def perform(video) # Process video end end
ProcessVideoJob.perform_later(Video.last)
以下のようにset
に:priority
オプションを渡すことも可能です。
MyJob.set(priority: 50).perform_later(record)
優先度の低い番号が、優先度の高い番号より先に実行されるか後に実行されるかは、アダプタの実装によって異なります。詳しくはバックエンドのドキュメントを参照してください。アダプタの作成者は、小さい番号ほど重要度が高いものとして扱うことが推奨されます。
Active Jobが提供するフックを用いて、ジョブのライフサイクル中にロジックをトリガできます。これらのコールバックは、Railsの他のコールバックと同様に通常のメソッドとして実装し、マクロ風のクラスメソッドでコールバックとして登録できます。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :default around_perform :around_cleanup def perform # 後で行なう end private def around_cleanup # performの直前に何か実行 yield # performの直後に何か実行 end end
このマクロスタイルのクラスメソッドは、ブロックを1つ受け取ることもできます。ブロック内のコード量が1行以内に収まるほど少ない場合は、この書き方をご検討ください。 たとえば、登録されたジョブごとの測定値を送信する場合は次のようにします。
class ApplicationJob < ActiveJob::Base before_enqueue { |job| $statsd.increment "#{job.class.name.underscore}.enqueue" } end
perform_all_later
でジョブをキューに一括登録すると、個別のジョブではaround_enqueue
などのコールバックがトリガーされなくなる点にご注意ください。
詳しくは一括登録のコールバックを参照してください。
perform_all_later
を使うことで、複数のジョブをキューに一括登録(bulk enqueue: バルクエンキュー)できます。一括登録により、Redisやデータベースなどのキューデータストアとのジョブの往復が削減され、同じジョブを個別に登録するよりもパフォーマンスが向上します。
perform_all_later
はActive JobのトップレベルAPIで、インスタンス化されたジョブを引数として受け取ります(この点がperform_later
と異なることにご注意ください)。 perform_all_later
は内部でperform
を呼び出します。 new
に渡された引数は、最終的にperform
が呼び出されるときにperform
に渡されます。
以下は、GuestCleanupJob
インスタンスを用いてperform_all_later
を呼び出すコード例です。
# `perform_all_later`に渡すジョブを作成する # この`new`に渡した引数は`perform`に渡される guest_cleanup_jobs = Guest.all.map { |guest| GuestsCleanupJob.new(guest) } # `GuestCleanupJob`の個別のインスタンスごとにジョブをキューに登録する ActiveJob.perform_all_later(guest_cleanup_jobs) # `set`メソッドでオプションを設定してからジョブを一括登録してもよい guest_cleanup_jobs = Guest.all.map { |guest| GuestsCleanupJob.new(guest).set(wait: 1.day) } ActiveJob.perform_all_later(guest_cleanup_jobs)
perform_all_later
は、正常にキューに登録されたジョブの個数をログ出力します。たとえば、上のGuest.all.map
の結果guest_cleanup_jobs
が3個になった場合、Enqueued 3 jobs to Async (3 GuestsCleanupJob)
とログ出力されます(キュー登録がすべて成功した場合)。
perform_all_later
の戻り値はnil
です。これは、perform_later
がキューに登録したジョブクラスのインスタンスを返すのと異なる点にご注意ください。
perform_all_later
を使えば、同じ呼び出しでさまざまなActive Jobクラスのインスタンスを以下のようにキューに登録することも可能です。
class ExportDataJob < ApplicationJob def perform(*args) # データをエクスポートする end end class NotifyGuestsJob < ApplicationJob def perform(*guests) # ゲストにメールを送信する end end # ジョブインスタンスをインスタンス化する cleanup_job = GuestsCleanupJob.new(guest) export_job = ExportDataJob.new(data) notify_job = NotifyGuestsJob.new(guest) # さまざまなクラスのジョブインスタンスをまとめてキューに登録する ActiveJob.perform_all_later(cleanup_job, export_job, notify_job)
perform_all_later
でジョブをキューに一括登録すると、個別のジョブではaround_enqueue
などのコールバックがトリガーされません。この振る舞いは、Active Recordの他の一括処理系メソッドと一貫しています。コールバックは個別のジョブに対して実行されるので、perform_all_later
メソッドでは一括処理の恩恵を受けられません。
ただし、perform_all_later
メソッドは、ActiveSupport::Notifications
でサブスクライブできるenqueue_all.active_job
イベントをトリガーします。
ジョブのキューへの登録が成功したかどうかを知るには、successfully_enqueued?
メソッドが利用できます。
perform_all_later
によるキューへの一括登録を行うには、キューのバックエンドにるサポートが必要です。
たとえば、Sidekiqにはpush_bulk
メソッドがあるので、これを用いて多数のジョブをRedisにプッシュして、往復の増加によるネットワーク遅延を避けられます。GoodJobではGoodJob::Bulk.enqueue
メソッドによるキューへの一括登録もサポートしています。新しいキューバックエンドであるSolid Queue
でもキューへの一括登録のサポートが追加されました。
キューへの一括登録がキューバックエンドでサポートされていない場合、perform_all_later
はジョブを1件ずつキューに登録します。
最近のWebアプリケーションでよく実行されるジョブといえば、リクエスト-レスポンスのサイクルの外でメールを送信することでしょう。これにより、ユーザーが送信を待つ必要がなくなります。Active JobはAction Mailerと統合されているので、非同期メール送信を簡単に行えます。
# すぐにメール送信するなら#deliver_now UserMailer.welcome(@user).deliver_now # Active Jobで後でメール送信するなら#deliver_later UserMailer.welcome(@user).deliver_later
一般に、非同期キュー(.deliver_later
でメールを送信するなど)はRakeタスクに書いても動きません。Rakeが終了すると、.deliver_later
がメールの処理を完了する前にインプロセスのスレッドプールを削除する可能性があるためです。この問題を回避するには、.deliver_now
を用いるか、development環境で永続的キューを実行してください。
各ジョブでは、ジョブ作成時に設定されたI18n.locale
を使います。これはメールを非同期的に送信する場合に便利です。
I18n.locale = :eo UserMailer.welcome(@user).deliver_later # メールがエスペラント語にローカライズされる
Active Jobの引数では、デフォルトで以下の型をサポートします。
NilClass
、String
、Integer
、Float
、BigDecimal
、TrueClass
、FalseClass
)Symbol
Date
Time
DateTime
ActiveSupport::TimeWithZone
ActiveSupport::Duration
Hash
(キーの型はString
かSymbol
にすべき)ActiveSupport::HashWithIndifferentAccess
Array
Range
Module
Class
Active JobではGlobalIDがパラメータとしてサポートされています。GlobalIDを使えば、動作中のActive Recordオブジェクトをジョブに渡す際にクラスとidを指定する必要がありません。クラスとidを指定する従来の方法では、後で明示的にデシリアライズ (deserialize) する必要がありました。従来のジョブが以下のようなものだったとします。
class TrashableCleanupJob < ApplicationJob def perform(trashable_class, trashable_id, depth) trashable = trashable_class.constantize.find(trashable_id) trashable.cleanup(depth) end end
上は以下のように簡潔に書けます。
class TrashableCleanupJob < ApplicationJob def perform(trashable, depth) trashable.cleanup(depth) end end
このコードは、GlobalID::Identification
をミックスインするすべてのクラスで動作します。このモジュールはActive Recordクラスにデフォルトでミックスインされます。
サポートされる引数の型は、以下のような独自のシリアライザを定義するだけで拡張できます。
# app/serializers/money_serializer.rb # あるオブジェクトを、オブジェクト型をサポートするもっとシンプルな表現形式に変換する。 # 表現形式としては特定のキーを持つハッシュが推奨される。キーには基本型のみが利用可能。 # `super`を読んでカスタムシリアライザ型をハッシュに追加すべき def serialize(money) super( "amount" => money.amount, "currency" => money.currency ) end # シリアライズされた値を正しいオブジェクトに逆変換する def deserialize(hash) Money.new(hash["amount"], hash["currency"]) end private # ある引数がこのシリアライザでシリアライズされるべきかどうかをチェックする def klass Money end end
続いてこのシリアライザをリストに追加します。
# config/initializers/custom_serializers.rb Rails.application.config.active_job.custom_serializers << MoneySerializer
初期化中は、再読み込み可能なコードの自動読み込みがサポートされていない点にご注意ください。そのため、たとえば以下のようにconfig/application.rb
を修正するなどして、シリアライザが1度だけ読み込まれるように設定することをおすすめします。
# config/application.rb module YourApp class Application < Rails::Application config.autoload_once_paths << "#{root}/app/serializers" end end
Active Jobでは、ジョブ実行時に発生する例外をrescue_from
でキャッチする方法が提供されています。
class GuestsCleanupJob < ApplicationJob queue_as :default rescue_from(ActiveRecord::RecordNotFound) do |exception| # ここに例外処理を書く end def perform # 後で実行する処理を書く end end
実行中に例外が発生したジョブは、以下のようにretry_on
でリトライすることも、discard_on
で廃棄することもできます。
class RemoteServiceJob < ApplicationJob retry_on CustomAppException # defaults to 3s wait, 5 attempts discard_on ActiveJob::DeserializationError def perform(*args) # CustomAppExceptionかActiveJob::DeserializationErrorをraiseする可能性があるとする end end
詳しくは、ActiveJob::Exceptions APIドキュメントを参照してください。
GlobalIDによって#perform
に渡された完全なActive Recordオブジェクトのシリアライズが可能になります。
ジョブがキューに登録された後で、渡したレコードが1件削除され、かつ#perform
メソッドをまだ呼び出していない場合は、Active JobによってActiveJob::DeserializationError
エラーがraiseされます。
ジョブのテスト方法について詳しくは、テスティングガイドをご覧ください。
ジョブがどこから来ているのかを把握したい場合は、詳細なログを有効にできます。
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