Rails のスレッドとコード実行

このガイドの内容:

  • Railsが自動的に並行処理するコードの紹介
  • Rails内部のコードと手動の並行処理を統合する方法
  • アプリケーションの全コードをラップする方法
  • アプリケーションの再読み込みへの影響

1 自動的な並行処理

Railsでは同時に複数の操作を自動的に実行できます。

スレッド化Webサーバー(RailsデフォルトのPumaなど)を用いると、複数のHTTPリクエストが同時に配信され、各リクエストはコントローラ固有のインスタンスに渡されます。

スレッド化Active Jobアダプタ(Rails組み込みのAsyncなど)も、同様に複数のジョブを同時実行します。Action Cableも同様に管理されます。

これらの仕組みはすべてマルチスレッドに関連します。各スレッドは、グローバルなプロセス空間(クラス、クラスの設定、グローバル変数など)を共有しつつ、何らかのオブジェクト(コントローラ/ジョブ/チャンネル)固有のインスタンスの動作を管理します。共有情報が変更されない限り、他のスレッドの存在はほとんど無視されます。

本ガイドでは、Railsが「他のスレッドをほぼ無視できるようにする」仕組みと、拡張機能や特殊な用途に用いられるアプリケーションでスレッドが使われる仕組みについて解説します。

2 Executor

Railsの「Executor」は、アプリケーションのコードをフレームワークのコードから切り離します。自分の書いたアプリケーションのコードがフレームワークで呼び出されるたびに、Executorによってラップされます。

Executorはto_runto_completeという2つのコールバックでできています。Runコールバックはアプリケーションのコードが実行される前に呼び出され、Completeコールバックはアプリケーションのコードの実行後に呼び出されます。

2.1 デフォルトのコールバック

デフォルトのRailsアプリケーションでは、以下の部分でExecutorのコールバックが利用されます。

  • 自動読み込みや再読み込みを安全に行えるスレッドがどれかをトラッキングする
  • Active Recordクエリキャッシュをオン/オフする
  • 獲得したActive Recordコネクションをコネクションプールに返す
  • 内部キャッシュの寿命を制限する

Rails 5.0より前は、これらの一部をRackミドルウェアのクラス(ActiveRecord::ConnectionAdapters::ConnectionManagement)で扱ったり、ActiveRecord::Base.connection_pool.with_connectionなどのメソッドで直接ラップしていました。Executorはこれらをより抽象度の高い単一のインターフェイスで置き換えます。

2.2 アプリケーションのコードのラップ

アプリケーションのコードを呼び出す何らかのライブラリやコンポーネントを書く場合は、次のようにexecutor呼び出しでラップすべきです。

Rails.application.executor.wrap do
  # アプリケーションのコードをここで呼び出す
end

長時間実行されるプロセスからアプリケーションのコードを呼ぶ場合は、代わりにReloaderでラップするとよいでしょう。

各スレッドは、アプリケーションのコードを実行する前にこのようにラップされるべきです。これにより、アプリケーションで何らかの作業を他のスレッドに手動で委譲する場合(Thread.newを使うなど)や、Concurrent Rubyのスレッドプールを用いる場合は、そのブロックをただちに以下のようにラップすべきです。

Thread.new do
  Rails.application.executor.wrap do
    # ここにコードを書く
  end
end

Concurrent Rubyで使われるThreadPoolExecutorexecutorオプションが設定されていることがありますが、これはその名に反してExecutorとは無関係です。

Executorは安全に「リエントラント」にできます。現在のスレッドで既にアクティブになっている場合、wrapは何も実行しません。

アプリケーションのコードをブロックで囲むと実用上問題がある場合(Rack APIで問題が生じる場合など)は、次のようにrun!complete!を組み合わせる方法も使えます。

Thread.new do
  execution_context = Rails.application.executor.run!
  # ここにコードを書く
ensure
  execution_context.complete! if execution_context
end

2.3 Executorの並行性

Executorは現在のスレッドをLoad Interlockrunningモードに設定します。アプリケーションでアンロードやリロードが発生中の場合は、この操作が一時的にブロックされます。

3 Reloader

Reloaderは、Executorと同じようにアプリケーションのコードをラップします。現在のスレッドでExecutorが既にアクティブでなくなった場合は、Reloaderが呼び出しを行うので、呼び出す必要があるのはいずれか1つだけです。また、これによってReloaderのすべての挙動(あらゆるコールバック呼び出しを含む)がExecutor内部で行われることも保証されます。

Rails.application.reloader.wrap do
  # アプリケーションのコードをここに書く
end

Reloaderは、フレームワークレベルで長時間実行されるプロセスがアプリケーションのコードを繰り返し呼び出す場合(Webサーバーやジョブキューなど)にのみ適しています。RailsはWebリクエストやActive Jobワーカーを自動的にラップするので、Reloaderを手動で呼び出す必要はめったにありません。Executorの方が自分のユースケースにふさわしい可能性があるかどうかを常に検討しましょう。

3.1 コールバック

Reloaderは、ラップされたブロックが実行される前に、現在実行中のアプリケーションを再読み込みする必要があるかどうか(モデルのソースコードファイルが変更された場合など)をチェックします。たとえば、再読み込みが必要と判断されると、Reloaderは安全になるまで待機してから再読み込みを行い、それから実行を継続します。変更が行われたかどうかにかかわらず常に再読み込みするようアプリケーションが設定されている場合は、ブロックの末尾で再読み込みが実行されます。

Reloaderにもto_runコールバックとto_completeコールバックが備わっており、呼び出しが行われる場所もExecutorと同じですが、現在実行中にアプリケーションで再読み込みが始まった場合にのみ実行される点が異なります。再読み込みが不要とみなされた場合、Reloaderはラップされたブロックの呼び出しでその他のコールバックを実行しません。

3.2 クラスのアンロード

再読み込みプロセスで最も重要な部分は、クラスのアンロードです。このとき、自動読み込みされたクラスがすべて削除され、再度読み込み可能な状態になります。クラスのアンロードは、reload_classes_only_on_change設定に応じて、RunコールバックやCompleteコールバックの直前で即座に行われます。

クラスのアンロードの直前や直後にさらに何らかの再読み込みが必要になることがよくあるので、Reloaderにはbefore_class_unloadコールバックやafter_class_unloadコールバックも備わっています。

3.3 Reloaderの並行性

Reloaderを呼び出す場所は、長時間実行される「トップレベル」プロセスに限定すべきです。そうすることで、再読み込みが必要と判断された場合に、他の全スレッドがExecutor呼び出しを完了するまでブロックされるようになるからです。

万一Reloadの呼び出しが「子」スレッドで発生し、かつExecutor内部で親スレッドが待ち状態になっていると、回避できないデッドロックが発生する可能性があります。再読み込みは子スレッド実行前に行われなければならないにもかかわらず、親スレッドの実行中は安全に再読み込みできないからです。子スレッドではReloaderではなくExecutorを使うべきです。

4 フレームワークの挙動

Railsフレームワークのコンポーネントでは、必要な並行性(concurrency: コンカレンシー)の管理にもこのツールが用いられています。

RackミドルウェアであるActionDispatch::ExecutorActionDispatch::Reloaderは、それぞれExecutorとReloaderでリクエストをラップします。2つのRackミドルウェアはデフォルトのアプリケーションスタックに自動的にインクルードされます。Reloaderは、コードが変更されたときに常に新しく読み込まれたアプリケーションでHTTPリクエストを配信するようにします。

Active Jobでもジョブ実行をReloaderでラップし、キューに積まれた各ジョブを実行するときに最新のコードが読み込まれるようにします。

Action CableではReloaderではなくExecutorが使われます。Action Cableコネクションはクラスの特定のインスタンスに紐付けられていて、Websocketメッセージが到着するたびに再読み込みすることが不可能なためです。Action Cableではメッセージハンドラのみがラップされるので、長時間実行されるAction Cableコネクションでも、新しく到着したリクエストやジョブによってトリガされる再読み込みはブロックされません。代わりに、Action CableはReloaderのbefore_class_unloadコールバックを用いてすべてのコネクションを切断します。クライアントが自動的に再接続すると、そのことが新バージョンのコードに伝わります。

上記はフレームワークのエントリポイントなので、それぞれのコンポーネントは自身のスレッド群が保護されていることを確認し、再読み込みが必要かどうかを決定する責務を負います。その他のコンポーネントは、追加のスレッドを生成するためだけにExecutorを必要とします。

4.1 設定

Reloaderは、config.enable_reloadingtrueかつconfig.reload_classes_only_on_changetrueの場合にのみファイルの変更をチェックします。これらはdevelopment環境でのデフォルトです。

config.enable_reloadingfalse (productionのデフォルト) の場合は、ReloaderはExecutorへのパススルーのみを行います。

Executorは、データベース接続の管理などの重要な作業を常に抱えています。config.enable_reloadingfalseかつconfig.eager_loadtrueproduction のデフォルト)の場合、Load Interlockは不要になります。development環境のデフォルト設定では、ExecutorはLoad Interlockを利用して、安全な場合にのみ定数を読み込みます。

5 Load Interlock

Load Interlockは、マルチスレッド実行環境での自動読み込みや再読み込みを可能にします。

あるスレッドが、該当するファイルのクラス定義が評価されたことで自動読み込みを実行している場合、他のスレッドで定義の中途半端な定数が参照されないようにすることが重要です。

同様に、実行中のアプリケーションコードがない場合にのみアンロードやリロードを実行することで安全を保てるようになります。そうしないと、再読み込み後にたとえばUser定数が別のクラスを指してしまう可能性があります。このルールがないと、再読み込みのタイミングによってはUser.new.class == Userfalseになり、場合によってはUser == Userすらfalseになってしまうでしょう。

これらの制約を正すのがLoad Interlockです。Load Interlockは、どのスレッドがアプリケーションのコードを実行中か、どのスレッドがクラスを読み込み中か、自動読込された定数をどのスレッドがアンロード中かを常にトラッキングします。

読み込みやアンロードは1度に1つのスレッドでしか行われないので、読み込みやアンロードを行うには、アプリケーションのコードを実行中のスレッドが存在しなくなるまで待たなければなりません。読み込みを実行するために待ち状態になっているスレッドがあるからといって、他のスレッドでの読み込みは阻止されません(実際はこれらのスレッドは協調動作するので、キューイングされた読み込みを個別のスレッドが実行してからすべてのスレッドが再開します)。

5.1 permit_concurrent_loads

Executorのブロック内部では、runningロックが自動的に取得されます。そして自動読み込みではloadロックをアップグレードするタイミングが認識されており、その後再びrunningに戻ります。

ただし、Executorブロック内で実行されるその他のブロッキング操作(アプリケーションの全コードを含む)では、不必要なrunningロックが保持されることがあります。ある定数に他のスレッドがアクセスすると、その定数は自動読み込みされなければならないため、デッドロックの原因になることがあります。

たとえば、Userが読み込まれていないと仮定すると、以下はデッドロックします。

Rails.application.executor.wrap do
  th = Thread.new do
    Rails.application.executor.wrap do
      User # 内側のスレッドはここで待機する
           # 他のスレッドが実行中はUserを読み込めない
    end
  end

  th.join # 外側のスレッドは'running'ロックをつかんだままここで待機する
end

このデッドロックを防止するために、外側のスレッドはpermit_concurrent_loadsメソッドを呼び出せます。このメソッドを呼び出したスレッドは、提供されたブロック内で自動読み込みされた可能性のある定数を参照解決しないことが保証されます。この保証を満たす最も安全な手法は、このメソッド呼び出しをブロッキング呼び出しの可能な限り近くに配置することです。

Rails.application.executor.wrap do
  th = Thread.new do
    Rails.application.executor.wrap do
      User # 内側のスレッドは'load'ロックを取得し
           # Userを読み込んで続行できる
    end
  end

  ActiveSupport::Dependencies.interlock.permit_concurrent_loads do
    th.join # 外側のスレッドはここで待機するがロックを保持しない
  end
end

Concurrent Rubyを用いる別の例は次のとおりです。

Rails.application.executor.wrap do
  futures = 3.times.collect do |i|
    Concurrent::Promises.future do
      Rails.application.executor.wrap do
        # ここで何かする
      end
    end
  end

  values = ActiveSupport::Dependencies.interlock.permit_concurrent_loads do
    futures.collect(&:value)
  end
end

5.2 ActionDispatch::DebugLocks

デッドロックするアプリケーションでLoad Interlockが関与していると考えられる場合、一時的にActionDispatch::DebugLocksミドルウェアを以下のようにconfig/application.rb設定に追加できます。

config.middleware.insert_before Rack::Sendfile,
                                  ActionDispatch::DebugLocks

追加後アプリケーションを再起動してデッドロック条件を再度トリガすると、/rails/locksで「Load Interlockで現在認識されているすべてのスレッド」「それらが現在保持または待機しているロックのレベル」「それらの現在のバックトレース」の概要が表示されるようになります。

デッドロックは一般に、Load Interlockが他の外部ロックやブロッキングI/O呼び出しと競合することで発生します。デッドロックに気づいたら、permit_concurrent_loadsでラップできます。

6 参考資料(日本語)

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