マイグレーション(migration)はActive Recordの機能の1つであり、データベーススキーマが長期にわたって進化を安定して繰り返せるようにするための仕組みです。マイグレーション機能のおかげで、スキーマ変更を生SQLで記述せずに、Rubyで作成されたマイグレーション用のDSL(ドメイン固有言語)を用いてテーブルの変更を簡単に記述できます。
このガイドの内容:
rails
タスクの解説schema.rb
の関係マイグレーションは、データベーススキーマの継続的な変更(英語)を、統一的かつ簡単に行なうための便利な手法です。マイグレーションではRubyのDSLが使われているので、生のSQLを作成する必要がなく、スキーマおよびスキーマ変更がデータベースに依存しなくなります。
個別のマイグレーションは、データベースの新しい「バージョン」とみなせます。スキーマは空の状態から始まり、マイグレーションによる変更が加わるたびにテーブル、カラム、エントリが追加または削除されます。Active Recordはマイグレーションの時系列に沿ってスキーマを更新する方法を知っているので、履歴のどの時点からでも最新バージョンのスキーマに更新できます。Active Recordはdb/schema.rb
ファイルを更新し、データベースの最新の構造と一致するようにします。
マイグレーションの例を以下に示します。
class CreateProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change create_table :products do |t| t.string :name t.text :description t.timestamps end end end
上のマイグレーションを実行するとproducts
という名前のテーブルが追加されます。この中にはname
というstringカラムと、description
というtextカラムが含まれています。主キーはid
という名前で暗黙に追加されます。id
はActive Recordモデルにおけるデフォルトの主キーです。timestamps
マクロは、created_at
とupdated_at
という2つのカラムを追加します。これらの特殊なカラムが存在する場合、Active Recordによって自動的に管理されます。
マイグレーションで定義されているのは、時間を先に進めるときに実行したい動作である点にご注目ください。マイグレーションの実行前にはテーブルは1つもありません。マイグレーションを実行すると、テーブルが作成されます。Active Recordは、このマイグレーションを逆進させる方法も知っています。マイグレーションをロールバックさせると、テーブルは削除されます。
トランザクション内でスキーマを変更するステートメントがデータベースでサポートされていれば、マイグレーションはトランザクションでラップされます。この機能がデータベースでサポートされていない場合は、マイグレーションの一部が失敗した場合にロールバックされません。その場合は、変更の逆進を手動で記述する必要があります。
ある種のクエリは、トランザクション内で実行できないことがあります。アダプタがDDLトランザクションをサポートしている場合は、disable_ddl_transaction!
を使えば単一のマイグレーションでこれらを無効にできます。
マイグレーションを取り消す(逆進させる)方法をActive Recordが推測できない場合は、reversible
メソッドを利用できます。
class ChangeProductsPrice < ActiveRecord::Migration[7.0] def change reversible do |direction| change_table :products do |t| direction.up { t.change :price, :string } direction.down { t.change :price, :integer } end end end end
change
の代わりにup
とdown
を使うこともできます。
class ChangeProductsPrice < ActiveRecord::Migration[7.0] def up change_table :products do |t| t.change :price, :string end end def down change_table :products do |t| t.change :price, :integer end end end
マイグレーションはdb/migrate
ディレクトリに保存されます。1つのマイグレーションファイルが1つのマイグレーションクラスに対応します。マイグレーションファイル名はYYYYMMDDHHMMSS_create_products.rb
のような形式になります。ファイル名の日時はマイグレーションを識別するUTCタイムスタンプであり、アンダースコアに続いてマイグレーション名が記述されます。マイグレーションのクラス名(CamelCase)は、ファイル名の後半(snake_case)と一致する必要があります。たとえば、20080906120000_create_products.rb
ではCreateProducts
というクラスを定義し、20080906120001_add_details_to_products.rb
ではAddDetailsToProducts
というクラスを定義する必要があります。Railsはマイグレーションの実行順序をファイル名のタイムスタンプで決定するので、マイグレーションを他のアプリケーションからコピーする場合や、自分でマイグレーションを生成する場合は、実行順に注意する必要があります。
タイムスタンプを算出する作業は退屈です。Active Recordにはタイムスタンプを自動生成するジェネレータが用意されています。
$ bin/rails generate migration AddPartNumberToProducts
上を実行すると、空のマイグレーションが適切な名前で作成されます。
class AddPartNumberToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change end end
ジェネレータは、単にファイル名の冒頭にタイムスタンプを追加するだけではありません。命名規約や追加の(オプション)引数に基づいて、マイグレーションに肉付けすることもできます。
マイグレーション名が"AddColumnToTable"や"RemoveColumnFromTable"で、かつその後ろにカラム名や型が続く形式になっていれば、適切なadd_column
文やremove_column
文を含むマイグレーションが作成されます。
$ bin/rails generate migration AddPartNumberToProducts part_number:string
上を実行すると以下のマイグレーションファイルが生成されます。
class AddPartNumberToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change add_column :products, :part_number, :string end end
新しいカラムにインデックスも追加したい場合は以下のようにします。
$ bin/rails generate migration AddPartNumberToProducts part_number:string:index
上を実行すると以下のマイグレーションファイルが生成されます。
class AddPartNumberToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change add_column :products, :part_number, :string add_index :products, :part_number end end
同様に、カラムを削除するマイグレーションをコマンドラインで生成するには以下のようにします。
$ bin/rails generate migration RemovePartNumberFromProducts part_number:string
上を実行すると以下のマイグレーションファイルが生成されます。
class RemovePartNumberFromProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change remove_column :products, :part_number, :string end end
自動で生成できるカラムは1種類だけではありません。たとえば以下のような指定も可能です。
$ bin/rails generate migration AddDetailsToProducts part_number:string price:decimal
上を実行すると以下が生成されます。
class AddDetailsToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change add_column :products, :part_number, :string add_column :products, :price, :decimal end end
マイグレーション名が"CreateXXX"のような形式で、その後にカラム名と型が続く場合、XXXという名前のテーブルが作成され、指定の型のカラム名がその中に生成されます。たとえば次のようになります。
$ bin/rails generate migration CreateProducts name:string part_number:string
上を実行すると以下のマイグレーションファイルが生成されます。
class CreateProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change create_table :products do |t| t.string :name t.string :part_number t.timestamps end end end
これまでと同様、ここまでに生成したマイグレーションの内容は単なる出発点でしかありません。db/migrate/YYYYMMDDHHMMSS_add_details_to_products.rb
ファイルを編集して、項目の追加や削除を行えます。
同様に、カラム型にreferences
も指定できます(belongs_to
でも可)。たとえば次のようになります。
$ bin/rails generate migration AddUserRefToProducts user:references
上を実行すると以下のadd_reference
呼び出しが生成されます。
class AddUserRefToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change add_reference :products, :user, foreign_key: true end end
このマイグレーションを実行すると、user_id
が作成されます。reference
(参照)は、「カラムの作成」「インデックスの作成」「外部キーの作成」そして「ポリモーフィック関連付けカラムの作成」のショートハンドです。
名前の一部にJoinTable
が含まれているとjoinテーブルを生成するジェネレータもあります。
$ bin/rails generate migration CreateJoinTableCustomerProduct customer product
上によって以下のマイグレーションが生成されます。
class CreateJoinTableCustomerProduct < ActiveRecord::Migration[7.0] def change create_join_table :customers, :products do |t| # t.index [:customer_id, :product_id] # t.index [:product_id, :customer_id] end end end
モデルのジェネレータとscaffoldジェネレータは、新しいモデルを追加するマイグレーションを生成します。このマイグレーションには、関連するテーブルを作成する命令が既に含まれています。必要なカラムを指定すると、それらのカラムを追加する命令も同時に生成されます。たとえば、以下を実行するとします。
$ bin/rails generate model Product name:string description:text
このとき、以下のようなマイグレーションが作成されます。
class CreateProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change create_table :products do |t| t.string :name t.text :description t.timestamps end end end
カラム名と型のペアはいくつでも追加できます。
よく使われる型修飾子の中には、コマンドラインで直接渡せるものもあります。これらの型修飾子はフィールド型の後ろに波かっこ{}
で追加します。
たとえば以下を実行したとします。
$ bin/rails generate migration AddDetailsToProducts 'price:decimal{5,2}' supplier:references{polymorphic}
これによって以下のようなマイグレーションが生成されます。
class AddDetailsToProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change add_column :products, :price, :decimal, precision: 5, scale: 2 add_reference :products, :supplier, polymorphic: true end end
詳しくはジェネレータのヘルプを参照してください。
ジェネレータでマイグレーションを作成できるようになったら、今度は自分で作成してみましょう。
create_table
メソッドは最も基本的なメソッドであり、ほとんどの場合モデルやscaffoldの生成時に使われます。典型的な利用法は以下のとおりです。
create_table :products do |t| t.string :name end
上によってproducts
テーブルが生成され、name
という名前のカラムがその中に作成されます(id
というカラムも暗黙で生成されますが、これについては後述します)。
デフォルトでは、create_table
によってid
という名前の主キーが作成されます。:primary_key
オプションを指定すれば主キー名も変更できます。主キーを使いたくない場合はid: false
オプションを指定することも可能です。特定のデータベースに依存するオプションが必要な場合は、以下のように:options
オプションに続けてSQLフラグメントを記述します。
create_table :products, options: "ENGINE=BLACKHOLE" do |t| t.string :name, null: false end
上のマイグレーションでは、テーブルを生成するSQLステートメントにENGINE=BLACKHOLE
を追加しています。
以下のように:index
オプションにtrue
やオプションハッシュを渡すと、create_table
ブロックで作成されるカラムにインデックスを追加できます。
create_table :users do |t| t.string :name, index: true t.string :email, index: { unique: true, name: 'unique_emails' } end
:comment
オプションを使うと、テーブルを説明するコメントを書いてデータベース自身に保存することも可能です。保存した説明文はMySQL WorkbenchやPgAdmin IIIなどのデータベース管理ツールで表示できます。説明文を追加しておくことでデータモデルが理解しやすくなり、ドキュメントも生成されるので、大規模なデータベースを持つアプリケーションでは、マイグレーションにこのようなコメントを追加しておくことを強くおすすめします。
現時点では、MySQLとPostgreSQLアダプタのみがコメント機能をサポートしています。
マイグレーションのcreate_join_table
メソッドはhas_and_belongs_to_many(HABTM)というjoinテーブルを作成します。典型的な利用法は以下のとおりです。
create_join_table :products, :categories
上によってcategories_products
テーブルが作成され、その中にcategory_id
カラムとproduct_id
カラムが生成されます。これらのカラムには:null
オプションがあり、デフォルト値はfalse
です。:column_options
オプションを指定すれば、これらを上書きできます。
create_join_table :products, :categories, column_options: { null: true }
デフォルトでは、create_join_table
に渡された引数の最初の2つをつなげたものがjoinテーブル名になります。
独自のテーブル名を使いたい場合は、:table_name
で指定します。
create_join_table :products, :categories, table_name: :categorization
上のようにすることでcategorization
テーブルが作成されます。
create_join_table
にはブロックも渡せます。ブロックはインデックスの追加(インデックスはデフォルトでは作成されません)やカラムの追加に使われます。
create_join_table :products, :categories do |t| t.index :product_id t.index :category_id end
既存のテーブルを変更するchange_table
は、create_table
とよく似ています。基本的にはcreate_table
と同じ要領で使いますが、ブロックでyieldされるオブジェクトではいくつかのテクニックが利用できます。たとえば次のようになります。
change_table :products do |t| t.remove :description, :name t.string :part_number t.index :part_number t.rename :upccode, :upc_code end
上のマイグレーションではdescription
とname
カラムが削除され、stringカラムであるpart_number
が作成されてインデックスがそこに追加されます。そして最後にupccode
カラムをリネームしています。
マイグレーションでは、remove_column
やadd_column
に加えてchange_column
メソッドも利用できます。
change_column :products, :part_number, :text
上は、productsテーブル上のpart_number
カラムの型を:text
フィールドに変更しています。
change_column
コマンドは逆進できない(可逆的でない)点にご注意ください。
change_column
の他に、not null制約を変更するchange_column_null
メソッドや、デフォルト値を指定するchange_column_default
メソッドも利用できます。
change_column_null :products, :name, false change_column_default :products, :approved, from: true, to: false
上のマイグレーションはproductsテーブルの:name
フィールドにNOT NULL
制約を設定し、:approved
フィールドのデフォルト値をtrue
からfalse
に変更します。
上のchange_column_default
マイグレーションはchange_column_default :products, :approved, false
と書くことも可能ですが、先ほどの例と異なり、マイグレーションは不可逆的になります。
カラムの作成時や変更時に、カラムの修飾子を適用できます。
comment
: カラムにコメントを追加します。collation
: string
カラムやtext
カラムのコレーション(照合順序)を指定します。default
: カラムでのデフォルト値の設定を許可します。dateなどの動的な値を使う場合は、デフォルト値は最初(マイグレーションが実行された日付など)しか計算されないことにご注意ください。デフォルト値をNULL
にする場合はnil
を指定してください。limit
: string
フィールドについては最大文字数を、text
/binary
/integer
については最大バイト数を設定します。null
: カラムでNULL
値を許可または禁止します。precision
: decimal
/numeric
/datetime
/time
フィールドの精度(precision)を定義します。scale
: decimal
/numeric
フィールドのスケールを指定します。スケールは小数点以下の桁数で表されます。アダプタによっては他にも利用できるオプションがあります。詳しくは各アダプタ固有のAPIドキュメントを参照してください。
null
とdefault
はコマンドラインで指定できません。
add_reference
メソッドを使うと、適切な名前のカラムを作成できます。
add_reference :users, :role
このマイグレーションは、usersテーブルにrole_id
カラムを作成します。index: false
オプションを明示的に指定しない限り、そのカラムのインデックスも作成します。
add_reference :users, :role, index: false
add_belongs_to
メソッドはadd_reference
のエイリアスです。
add_belongs_to :taggings, :taggable, polymorphic: true
polymorphic:
オプションは、taggingsテーブルにtaggable_type
カラムおよびtaggable_id`カラムというポリモーフィック関連付け用のカラムを2つ作成します。
foreign_key
オプションを指定すると外部キーを作成できます。
add_reference :users, :role, foreign_key: true
add_reference
オプションについて詳しくはAPIドキュメントを参照してください。
remove_reference
を使って参照を削除できます。
remove_reference :products, :user, foreign_key: true, index: false
参照整合性の保証 に対して外部キー制約を追加することもできます。これは必須ではありません。
add_foreign_key :articles, :authors
上のadd_foreign_key
呼び出しは、articles
テーブルに新たな制約を追加します。この制約によって、id
カラムがarticles.author_id
と一致する行がauthors
テーブル内に存在することが保証されます。
to_table
名からfrom_table
カラム名を導出できない場合は、:column
オプションでカラム名を指定できます。参照されている主キーが:id
以外の場合は、:primary_key
オプションで主キーを指定してください。
たとえば、authors.email
を参照するarticles.reviewer
に外部キーを追加するには以下のようにします。
add_foreign_key :articles, :authors, column: :reviewer, primary_key: :email
add_foreign_key
では、name
、on_delete
、if_not_exists
、validate
、deferrable
などのオプションもサポートされています。
Active Recordでは単一カラムの外部キーのみがサポートされています。複合外部キーを使う場合はexecute
とstructure.sql
が必要です。詳しくはスキーマダンプの意義を参照してください。
外部キーの削除も以下のように簡単に行えます。
# 削除するカラム名の決定をActive Recordに任せる場合 remove_foreign_key :accounts, :branches # カラムを指定して外部キーを削除する場合 remove_foreign_key :accounts, column: :owner_id
Active Recordが提供するヘルパーの機能だけでは不十分な場合、execute
メソッドで任意のSQLを実行できます。
Product.connection.execute("UPDATE products SET price = 'free' WHERE 1=1")
個別のメソッドについて詳しくは、APIドキュメントを確認してください。
特に、ActiveRecord::ConnectionAdapters::SchemaStatements
(change
、up
、down
メソッドで利用可能なメソッドを提供)、ActiveRecord::ConnectionAdapters::TableDefinition
(create_table
で生成されるオブジェクトで利用可能なメソッドを提供)、およびActiveRecord::ConnectionAdapters::Table
(change_table
で生成されるオブジェクトで利用可能なメソッドを提供)を参照してください。
change
メソッドを使うchange
メソッドは、マイグレーションを自作する場合に最もよく使われます。このメソッドを使えば、多くの場合にActive Recordがマイグレーションを逆進させる(以前のマイグレーションにロールバックする)方法を自動的に認識します。以下はchange
でサポートされているマイグレーション定義の一部です。
add_check_constraint
add_column
add_foreign_key
add_index
add_reference
add_timestamps
change_column_comment
(:from
と:to
の指定は省略不可)change_column_default
(:from
と:to
の指定は省略不可)change_column_null
change_table_comment
(:from
と:to
の指定は省略不可)create_join_table
create_table
disable_extension
drop_join_table
drop_table
(テーブル作成時のオプションとブロックは省略不可)enable_extension
remove_check_constraint
(元の制約式の指定は省略不可)remove_column
(元の型名とカラムオプションの指定は省略不可)remove_columns
(元の型名とカラムオプションの指定は省略不可)remove_foreign_key
(他のテーブル名と元のオプションの指定は省略不可)remove_index
(カラム名と元のオプションの指定は省略不可)remove_reference
(元のオプションの指定は省略不可)remove_timestamps
(元のオプションの指定は省略不可)rename_column
rename_index
rename_table
ブロックで上記の逆進可能操作が呼び出されない限り、change_table
も逆進可能です。
これ以外のメソッドを使う必要がある場合は、change
メソッドの代わりにreversible
メソッドを利用するか、up
とdown
メソッドを明示的に書いてください。
reversible
を使うマイグレーションが複雑になると、Active Recordがマイグレーションを逆進できないことがあります。reversible
メソッドを使うと、マイグレーションを通常どおり実行する場合と逆進する場合の動作を以下のように指定できます。
class ExampleMigration < ActiveRecord::Migration[7.0] def change create_table :distributors do |t| t.string :zipcode end reversible do |direction| direction.up do # distributors viewを作成 execute <<-SQL CREATE VIEW distributors_view AS SELECT id, zipcode FROM distributors; SQL end direction.down do execute <<-SQL DROP VIEW distributors_view; SQL end end add_column :users, :address, :string end end
reversible
メソッドを使うことで、各命令を正しい順序で実行できます。前述のマイグレーション例を逆転させた場合、down
ブロックは必ずusers.address
カラムが削除された直後、そしてdistributors
テーブルがDROPされる直前に実行されます。
自作したマイグレーションが逆進不可能な場合、データの一部が失われる可能性があります。そのような場合は、down
ブロック内でActiveRecord::IrreversibleMigration
をraiseできます。こうすることで、誰かが後にマイグレーションを逆転させたときに、実行不可能であることを示すエラーが表示されます。
up
/down
メソッドを使うchange
の代わりに、従来のup
メソッドとdown
メソッドも利用できます。
up
メソッドにはスキーマに対する変換方法を記述し、down
メソッドにはup
メソッドによって行われた変換をロールバック(逆転)する方法を記述する必要があります。つまり、up
の後にdown
を実行した場合、スキーマが元に戻る必要があります。
たとえば、up
メソッドでテーブルを作成したら、down
メソッドではそのテーブルを削除する必要があります。down
メソッド内で行なう変換の順序は、up
メソッド内で行なう順序の正確な逆順にするのがよいでしょう。先のreversible
セクションの例は以下と同等になります。
class ExampleMigration < ActiveRecord::Migration[7.0] def up create_table :distributors do |t| t.string :zipcode end # distributors viewを作成 execute <<-SQL CREATE VIEW distributors_view AS SELECT id, zipcode FROM distributors; SQL add_column :users, :address, :string end def down remove_column :users, :address execute <<-SQL DROP VIEW distributors_view; SQL drop_table :distributors end end
マイグレーションが逆進不可能な場合、down
メソッド内でActiveRecord::IrreversibleMigration
エラーを発生させる必要があります。こうすることで、誰かが後にマイグレーションを逆進させたときに、実行不可能であることを示すエラーが表示されます。
revert
メソッドを使うと、Active Recordマイグレーションのロールバック機能を利用できます。
require_relative '20121212123456_example_migration' class FixupExampleMigration < ActiveRecord::Migration[7.0] def change revert ExampleMigration create_table(:apples) do |t| t.string :variety end end end
revert
には、逆進を行う命令を含むブロックも渡せます。これは、以前のマイグレーションの一部のみを逆進させたい場合に便利です。
たとえば、ExampleMigration
がコミット済みになっており、後になってDistributors viewが不要になったとします。
class DontUseDistributorsViewMigration < ActiveRecord::Migration[7.0] def change revert do # ExampleMigrationからコピペしたコード reversible do |direction| direction.up do # distributors viewを作成する execute <<-SQL CREATE VIEW distributors_view AS SELECT id, zipcode FROM distributors; SQL end direction.down do execute <<-SQL DROP VIEW distributors_view; SQL end end # 以後のマイグレーションはOK end end end
revert
を使わなくても同様のマイグレーションは自作できますが、その分余計な手間がかかります(create_table
とreversible
の順序を逆にし、create_table
をdrop_table
に置き換え、最後にup
とdown
を入れ替える)。
revert
はこれらの作業を一手に引き受けてくれます。
Railsにはマイグレーションを実行するためのrails
コマンドがいくつか用意されています。
マイグレーションを実行するrails
コマンドの筆頭といえば、rails db:migrate
でしょう。このタスクは基本的に、まだ実行されていないchange
またはup
メソッドを実行します。未実行のマイグレーションがない場合は何もせずに終了します。マイグレーションの実行順序は、マイグレーションの日付が基準になります。
db:migrate
タスクを実行すると、db:schema:dump
コマンドも同時に呼び出されます。このコマンドはdb/schema.rb
スキーマファイルを更新し、スキーマがデータベースの構造に一致するようにします。
マイグレーションの特定バージョンを指定すると、Active Recordは指定されたマイグレーションに達するまでマイグレーション(change・up・down)を実行します。マイグレーションのバージョンは、マイグレーションファイル名冒頭の数字で表されます。たとえば、20080906120000というバージョンまでマイグレーションしたい場合は、以下を実行します。
$ bin/rails db:migrate VERSION=20080906120000
20080906120000というバージョンが現在のバージョンより大きい場合(新しい方に進む通常のマイグレーションなど)、20080906120000に到達するまで(このマイグレーション自身も実行対象に含まれます)のすべてのマイグレーションのchange
(またはup
)メソッドを実行し、その先のマイグレーションは行いません。過去に遡るマイグレーションの場合、20080906120000に到達するまでのすべてのマイグレーションのdown
メソッドを実行しますが、上と異なり、20080906120000自身は含まれない点にご注意ください。
直前に行ったマイグレーションをロールバックする作業はよく発生します(マイグレーションに誤りがあって訂正したい場合など)。この場合、バージョン番号を調べて明示的にロールバックを実行しなくても、以下を実行するだけで済みます。
$ bin/rails db:rollback
これにより、change
メソッドを逆転実行するかdown
メソッドを実行する形で直前のマイグレーションにロールバックします。マイグレーションを2つ以上ロールバックしたい場合は、STEP
パラメータを指定できます。
$ bin/rails db:rollback STEP=3
これにより、最後に行った3つのマイグレーションがロールバックされます。
db:migrate:redo
コマンドは、ロールバックと再マイグレーションを一度に実行できるショートカットです。複数バージョンに対してこれを行いたい場合は、db:rollback
コマンドの場合と同様にSTEP
パラメータも指定できます。
$ bin/rails db:migrate:redo STEP=3
ただし、これらのコマンドでできるのは、db:migrate
でできることのみです。これらのコマンドは、バージョンを明示的に指定しなくて済むようにdb:migrate
タスクを使いやすくした単なるショートカットです。
bin/rails db:setup
コマンドは、「データベースの作成」「スキーマの読み込み」「seedデータを用いたデータベースの初期化」をまとめて実行します。
bin/rails db:reset
コマンドは、データベースをdropして再度設定します。このコマンドはrails db:drop db:setup
と同等です。
このコマンドは、すべてのマイグレーションを実行することと等価ではありません。このコマンドは単に現在のschema.rb
の内容をそのまま使い回します。マイグレーションをロールバックできなくなると、rails db:reset
を実行しても復旧できないことがあります。スキーマダンプについて詳しくは、スキーマダンプの意義 セクションを参照してください。
特定のマイグレーションをupまたはdown方向に実行する必要がある場合は、db:migrate:up
またはdb:migrate:down
タスクを使います。以下に示したように、適切なバージョン番号を指定するだけで、該当するマイグレーションに含まれるchange
、up
、down
メソッドのいずれかが呼び出されます。
$ bin/rails db:migrate:up VERSION=20080906120000
上を実行すると、バージョン番号が20080906120000のマイグレーションに含まれるchange
メソッド(またはup
メソッド)が実行されます。このコマンドは、最初にそのマイグレーションが実行済みであるかどうかをチェックし、Active Recordによって実行済みであると認定された場合は何も行いません。
デフォルトでは、rails db:migrate
はdevelopment
環境で実行されます。
他の環境に対してマイグレーションを行いたい場合は、コマンド実行時にRAILS_ENV
環境変数を指定します。たとえば、test
環境でマイグレーションを実行する場合は以下のようにします。
$ bin/rails db:migrate RAILS_ENV=test
デフォルトでは、マイグレーション実行後に正確な実行内容とそれぞれの所要時間が出力されます。 たとえば、テーブル作成とインデックス追加を行なうと次のような出力が得られます。
== CreateProducts: migrating ================================================= -- create_table(:products) -> 0.0028s == CreateProducts: migrated (0.0028s) ========================================
マイグレーションには、これらの出力方法を制御するためのメソッドが提供されています。
メソッド | 目的 |
---|---|
suppress_messages |
ブロックを渡すと、そのブロック内で生成される出力をすべて抑制する。 |
say |
第1引数で渡したメッセージをそのまま出力する。第2引数には、出力をインデントするかどうかをboolean値で指定できる。 |
say_with_time |
受け取ったブロックを実行するのに要した時間を示すテキストを出力する。ブロックが整数を1つ返す場合、影響を受けた行数であるとみなす。 |
以下のマイグレーションを例に説明します。
class CreateProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def change suppress_messages do create_table :products do |t| t.string :name t.text :description t.timestamps end end say "Created a table" suppress_messages {add_index :products, :name} say "and an index!", true say_with_time 'Waiting for a while' do sleep 10 250 end end end
上によって以下の出力が得られます。
== CreateProducts: migrating ================================================= -- Created a table -> and an index! -- Waiting for a while -> 10.0013s -> 250 rows == CreateProducts: migrated (10.0054s) =======================================
Active Recordから何も出力したくない場合は、bin/rails db:migrate VERBOSE=false
で出力を完全に抑制できます。
マイグレーションを自作していると、ときにはミスしてしまうこともあります。いったんマイグレーションを実行してしまった後では、既存のマイグレーションを単に編集してもう一度マイグレーションをやり直しても意味がありません。Railsはマイグレーションが既に実行済みであると認識しているので、rails db:migrate
を実行しても何も変更されません。このような場合には、マイグレーションをいったんロールバック(rails db:rollback
など)してからマイグレーションを修正し、それからbin/rails db:migrate
を実行して修正済みバージョンのマイグレーションを実行する必要があります。
一般に、既存のマイグレーションを直接変更するのはよくありません。既存のマイグレーションを変更すると、自分自身はもちろん、共同作業者も余分な作業を強いられます。さらに、既存のマイグレーションがproduction環境で実行中の場合、ひどい頭痛の種になるでしょう。既存のマイグレーションを直接修正するのではなく、修正用のマイグレーションを新たに作成してそれを実行するのが正しい方法です。これまでコミットされてない(より一般的に言えば、これまでdevelopment環境以外にデプロイされたことのない)マイグレーションを新たに生成し、それを編集するのが害の少ない方法です。
revert
メソッドは、以前のマイグレーション全体またはその一部を逆進させるためのマイグレーションを新たに書くときにも便利です(上述の以前のマイグレーションに戻すを参照してください)。
Railsのマイグレーションは強力ではありますが、データベースのスキーマを作成するための信頼できる情報源ではありません。信頼できる情報源は、やはりデータベースです。Railsは、デフォルトでdb/schema.rb
ファイルを生成してデータベーススキーマの最新の状態のキャプチャを試みます。
アプリケーションのデータベースの新しいインスタンスを作成する場合、マイグレーションの全履歴を最初から繰り返すよりも、単にrails db:schema:load
でスキーマファイルを読み込む方が、高速かつエラーが起きにくい傾向があります。
マイグレーション内の外部依存性が変更されたり、マイグレーションと異なる進化を遂げたアプリケーションコードに依存していたりすると、古いマイグレーションを正しく適用できなくなる可能性があります。
スキーマファイルは、Active Recordの現在のオブジェクトにある属性を手軽にチェックするときにも便利です。スキーマ情報はモデルのコードにはありません。スキーマ情報は多くのマイグレーションに分かれて存在しており、そのままでは非常に探しにくいものですが、こうした情報はスキーマファイルにコンパクトな形で保存されています。
Railsで生成されるスキーマダンプのフォーマットは、config/application.rb
のconfig.active_record.schema_format
設定で制御されます。デフォルトのフォーマットは:ruby
ですが、:sql
も指定できます。
:ruby
を指定すると、スキーマはdb/schema.rb
に保存されます。このファイルを開いてみると、1つの巨大なマイグレーションのように見えます。
ActiveRecord::Schema[7.0].define(version: 2008_09_06_171750) do create_table "authors", force: true do |t| t.string "name" t.datetime "created_at" t.datetime "updated_at" end create_table "products", force: true do |t| t.string "name" t.text "description" t.datetime "created_at" t.datetime "updated_at" t.string "part_number" end end
このスキーマ情報は、見てのとおりその内容を単刀直入に表しています。このファイルは、データベースを詳細に検査し、create_table
やadd_index
などでその構造を表現することで作成されています。
db/schema.rb
では、「トリガ」「シーケンス」「ストアドプロシージャ」「チェック制約」などのデータベース固有の項目を表現できません。マイグレーションでexecute
を用いれば、RubyマイグレーションDSLでサポートされないデータベース構造も作成できますが、そうしたステートメントはスキーマダンプで再構成されない点にご注意ください。これらの機能が必要な場合は、新しいデータベースインスタンスの作成に有用なスキーマファイルを正確に得るために、スキーマのフォーマットに:sql
を指定する必要があります。
スキーマフォーマットを:sql
にすると、データベース固有のツールを用いてデータベースの構造をdb/structure.sql
にダンプします。たとえばPostgreSQLの場合はpg_dump
ユーティリティが使われます。MySQLやMariaDBの場合は、多くのテーブルでSHOW CREATE TABLE
の出力結果がファイルに含まれます。
スキーマをdb/structure.sql
から読み込む場合、rails db:structure:load
を実行します。これにより、含まれているSQL文が実行されてファイルが読み込まれます。定義上、これによって作成されるデータベース構造は元の完全なコピーとなります。
スキーマダンプは一般にデータベースの作成に使われるものなので、スキーマファイルはGitなどのソースコード管理の対象に加えておくことを強く推奨します。
複数のブランチでスキーマを変更すると、マージしたときにスキーマファイルがコンフリクトする可能性があります。
コンフリクトを解決するには、bin/rails db:migrate
を実行してスキーマファイルを再生成してください。
Active Recordは「高度な機能はデータベースではなくモデルに存在する」というコンセプトを主張しています。そのため、トリガーや制約などは、そうした高度な機能の一部をデータベースに戻すものとみなされており、Active Recordではあまり使われていません。
validates :foreign_key, uniqueness: true
のようなデータベースバリデーション機能は、データ整合性をモデルが強制している例の1つです。モデルに関連付けの:dependent
オプションを指定すると、親オブジェクトが削除されたときに子オブジェクトも自動的に削除されます。アプリケーションレベルで実行される他の機能と同様、モデルのこうした機能だけでは参照整合性を維持できないため、開発者によってはデータベースの外部キー制約機能を用いて参照整合性を高めることもあります。
Active Recordだけではこうした外部機能を扱うツールをすべて提供することはできませんが、execute
メソッドを使えば任意のSQLを実行できます。
Railsのマイグレーション機能の主要な目的は、スキーマ変更のコマンドを一貫した手順で発行できるようにすることですが、データの追加や変更にも利用できます。これは、productionのデータベースのような削除や再作成を行えない既存データベースで便利です。
class AddInitialProducts < ActiveRecord::Migration[7.0] def up 5.times do |i| Product.create(name: "Product ##{i}", description: "A product.") end end def down Product.delete_all end end
Railsには、データベース作成後に初期データを素早く簡単に追加するシード(seed)機能があります。シードは、development環境やtest環境で頻繁にデータを再読み込みする場合に特に便利です。
シード機能は、db/seeds.rb
にRubyコードを記述してrails db:seed
を実行するだけで簡単に利用できます。
5.times do |i| Product.create(name: "Product ##{i}", description: "A product.") end
この方法なら、マイグレーションよりもずっとクリーンに空のアプリケーションのデータベースをセットアップできます。
db/schema.rb
やdb/structure.sql
は、使っているデータベースの最新ステートのスナップショットであり、そのデータベースを再構築するための情報源として信頼できます。これを手がかりにして、古いマイグレーションファイルを削除できます。
db/migrate/
ディレクトリ内のマイグレーションファイルを削除しても、マイグレーションファイルが存在していたときにrails db:migrate
が実行されたあらゆる環境は、Rails内部のschema_migrations
という名前のデータベース内に保存されている(マイグレーションファイル固有の)マイグレーションタイムスタンプへの参照を保持し続けます。このテーブルは、特定の環境でマイグレーションが実行されたことがあるかどうかをトラッキングするのに用いられます。
マイグレーションファイルを削除した状態でrails db:migrate:status
コマンド(本来マイグレーションのステータス(upまたはdown)を表示する)を実行すると、削除したマイグレーションファイルの後に********** NO FILE **********
と表示されるでしょう。これは、そのマイグレーションファイルが特定の環境で一度実行されたが、db/migrate/
ディレクトリの下に見当たらない場合に表示されます。
ただし1つ注意点があります。エンジンからマイグレーションをインストールするrakeタスクは「冪等」です(2回以上実行しても結果が変わりません)。以前のインストールによって親アプリケーションに存在するマイグレーションはスキップされ、マイグレーションが見つからない場合は最新のタイムスタンプでコピーされます。古いエンジンのマイグレーションを削除してからインストールタスクを再実行すると、新しいタイムスタンプを持つ新しいファイルが作成され、db:migrate
はそれらの新しいファイルを再実行しようとします。
したがって、一般にエンジン由来のマイグレーションは変更されないよう保護しておきましょう。そのようなマイグレーションには以下のようなコメントがあります。
# このマイグレーションはblorghからのもの( 元は20210621082949)
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